刑法犯少年の減少
平成24年版警察白書で示されているように、刑法犯少年の検挙人員は、平成15年から8年連続で減少となっています。そこで、警察白書において、少年非行を解説するページは少なくなっています。ところで、東京少年鑑別所に学生を連れて行くために、2013年5月16日に彼らにガイダンスをしたとき、24年版犯罪白書に記述されている少年非行の動向をみて、意外な事実に気づきました。特別法犯として送致された少年の人員に関しては「軽犯罪法違反は、平成19年から急増し、23年は4,672件(前年比22.8増)であり、特別法犯の中で最も高い比率(58.3%)を占めている」(99頁)という記述があったのです。「昭和30年代から昭和40年代の前半は、銃刀法違反が多く、40年代の後半からは、薬物犯罪が高水準にあった」が、今では、軽犯罪で送致される少年の数は、薬物犯罪の少年数を大幅に上回っているのです。
警察による補導・検挙活動のネット・ワイドニング
1980年代前半以来、警察による少年に対する補導・検挙活動が、ネット・ワイドニングされていると、私は指摘し続けてきました。このネット・ワイドニングの現象は、英語の論文で何回も紹介しましたので、海外では広く知られています。しかし、私は、日本語での論文を散発的にしか書いてこなかったので、この現象が、日本において専門家の間で知られるようになったのは、最近のことです。
少年警察活動のネット・ワイドニングは、戦後の少年非行の第2のピーク(10歳以上20歳未満の人口1,000人あたりの少年の刑法犯検挙人員の比率は、1964年の第2のピーク時には11.9でした)が過ぎた1960年代後半以降に、顕著になりました。典型的には、夜間に無灯火の自転車に乗っている少年、とくに年少少年に、警察官が声をかけるという形で、警察の補導・検挙活動が活発化したのです。その結果、所有主に無断で一時的に自転車に乗っていた場合は自転車窃盗で、放置自転車に乗っていた場合は占有離脱物横領で、頻繁に検挙されるようになったのです。1983年の統計で示された、戦後の非行の第3のピーク(10歳以上20歳未満の人口1,000人あたりの非行率は、最高値の17.1でした)は、主として、このような少年警察活動のネットワイドニングによってもたらされたと、私は解釈しています(横山実「日本における少年非行の動向と厳罰化傾向」、國學院法學38巻4号、2001年、171-205頁を参照してください)。
少子社会における非行少年への反作用
最近では、子どもの数が少なくなっています。その少なくなった子どもたちは、たくさんの大人によって、大切に育てられています。そのような社会状況なので、非行の第2のピーク時に見られたように、社会的に疎外された放任少年が暴力を行使することは激減しています。
他方、人々は、稀に起こる凶悪事件が、マスメディアによって、センセーショナルに報道されているので、体感治安の度合いを低下させています。そこで、人々は、治安確保の要求を出すようになっており、それに応じて、警察官の取り締まり態勢は強化されています。
警察による不良少年の補導
少年警察活動についていえば、交番に配置された多くの警察官は、地域でパトロールする際、深夜にコンビニなどでたむろしている少年に、積極的に声をかけるようになっています。そして、午後10時以降に外で遊んでいる18歳未満の少年を見つけると、「不良行為少年」として補導しています。以前は、不良行為少年として補導される事由は、「喫煙」が第1位でしたが、平成14年以降、「深夜はいかい」が第1位となり、平成23年には、補導された不良行為少年全体の55.7%を占めるに至っています(平成24年版警察白書110ページの表2-25)。少年を軽犯罪法違反で検挙することが強まったのは、この延長線上の現象だと思われます。
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